待ち合わせて、乗り込んだ電車の中。
目的地は5つくらい先の駅。特に話すことも見つからなくて話題を探していたら、わたしはうっかり墓穴を掘った。
「だいきとメールしてるんだ?」
「あ、うん。明日何時かって、メールきて」
思わず付け足した言葉がわたしには言い訳にしか聞こえなかったけど、知らないふりをした。だって、本当のことだし。
さみしいの?くやしいの?うらやましいの?
意地の悪いわたしは、頭のなかで問いかける。きっと、ぜんぶだ。
だいきに返信をしていたら、さこも携帯に没頭しはじめた。いつものことだ。ひとが少しでも携帯に気を取られると、負けじと携帯を弄りはじめて、しかもいつまでも戻ってこなくなるのだ。悪い癖だと思う。だってメールならまだしも、していることと言ったらネット配信のニュースやコラムを読んでいるのがほとんどで、そんなこと人といる時にすることじゃないって思うから。
「明日、何時だっけ」
「さっき言ったじゃん、あ、つくよ、降りなきゃ」
「うん、知ってる」
さこはそこでやっと携帯をとじて、こちらに帰ってきた。
何を知ってるのよって思ったけど、これもいつものことだから何も言わないことにした。
携帯に没頭しながらも車内のアナウンスを聞いていたのかもしれないし、電光掲示板をちらりと見ていたのかもしれないし、見たのは外の風景だったのかもしれないし、それは本人にしか分からない。けどわたしは、そのどれでもないって知っている。だから何を言ったって無駄なのだ。
シュー、と音をたてて開いたドアの向こうは思っていたより暖かい。今日は天気がいいから、斜めの日差しがふりそそぐホームを歩いているだけで暑いくらいだ。
「で、何時?」
「6時にあきんち」
「ふーん」
興味のなさそうな生返事に、わたしは一気に脱力した。
ズボンのポケットで携帯が震えている。だいきからだろうか。気になるけど、今手をのばしたらまたさこが戻ってこなくなってしまうから気づかなかったことにする。
「そうだ。だいき明日、野暮用で遅れるかもって」
「野暮用って?」
「知らない。ちゃんと来いってメールしたげたら?」
「いやよ面倒くさい」
「ひどいなあ」
「わたしは来ないなら来ないでいいもの、かなちゃんが送ればいいでしょ」
さみしいの?くやしいの?うらやましいの?
「やだよー」
「ひとのこと言えないじゃない」
「あはは」
だって、わたしが言っても意味がないことをわたしは知っているのだ。本当に、残念なことに。だからわたしは無言でいじわるを言うしかない。
さみしいの?くやしいの?うらやましいの?
もらっちゃうよ、なんて言ってあげられるほど、私は強くないし大きくもないし、何よりこどもだ。本当に本当に、残念だと思う。
「まあ、こないことないでしょ。誕生日祝うのに本人がいないってありえないし」
「たしかに」
「よし、何買おうか」
「なんでもいいんじゃない?だいきならなんでも喜びそう」
「よし、じゃあさこが選んでね!」
「なんでわたしが」
「いいから、よしいこ!」
これならだいきも喜ぶだろうななんて思ったら、切なくて悲しくて、でも同じくらいわくわくした。
見えてしまった内弁慶と見て見ぬふりの変わり者